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おじいちゃんの体温、あたしの体温
祖父が、私たち家族と一緒に住んでいた頃。
祖父は寡黙な人で、ほとんど私と話すことはありませんでした。


怖い、とは思わなかったケド、記憶の中では、なついてない。
祖母と違って、何も話さない、静かな石のような存在。


ある夜、2歳か3歳の私は眠れずに、
祖母と寝ていた布団を抜け出して、暗闇が怖くて、部屋の隅で泣いていました。
そんなとき、その頃は耳が遠くなかった祖父が、


「どうした?ユウ?
 泣いているのか?」


「うん」


「眠れないんだな。よし、こっちにきなさい」


そういって祖父は、私の手を引いて、茶の間の方へと歩いていきました。
そのとき、祖父と初めて手を繋いだような気がします。
初めて、祖父と手を繋いだ記憶。


そして茶の間に着いた祖父はおもむろにしゃがみ込み、



「ユウ、おんぶしてあげるから、きなさい」


「おじいちゃん、おんぶ、してくれるの?」


「そうだよ」


私は、黙って祖父の背中に乗りました。
初めて乗る、祖父の背中。


茶の間をぐるぐる回ってくれました。


何周したでしょうか。
祖父の背中は、時間をおうごとに温かくなり、
子供だった私の高い体温でほんとうに温かくなり、
とろとろするほど気持ちがよく、
祖父が歩くその振動も心地よく、


今でもハッキリ覚えています。


残念ながら、記憶はそこまでなのですが、
あのときの祖父の高い背中の体温が忘れられません。


あのとき、冬だったから、祖父はきっと足が冷たかったでしょう。
布団を出るときに、靴下を履こうなんて考えつかないような人だから。
カーディガンを羽織ろうなんて考えつかないような人だから。


でも私は温かかったです。
寡黙な祖父の、優しさ。
嬉しい気持ちと、驚きの気持ち。


今、祖父は、認知症で病院に長期入院しています。
時々たずねると、「ユウか?」と嬉しそうに笑い、握手を求めてきます。


その手を握ると、その手からは、あのときと同じ乾いた体温を感じるのです。


スープストックトーキョー
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